「宗教的理由による輸血拒否患者」に対する当院の指針
【はじめに】
「宗教的理由による輸血拒否患者」への対応について、当院における基本的な手順を示す。
なお、本マニュアルの作成にあたっては、宗教的輸血拒否に関する合同委員会による「宗教的輸血拒否に関するガイドライン(2008年2月28日)」を主に参照した。
【当院における基本方針】
1)宗教的輸血拒否者(以下、信者)の主張と心理特性への配慮。
信者は、その信仰に基づいて生命の維持よりも、輸血しないことに優越的な価値を認めて絶対的無輸血注1の態度をとる。このような信者の信条を理解し、原則として治療は拒否しない。
2)信者である患者、あるいは患者の家族である信者など(以下、当事者)の輸血拒否の意思については最大限尊重するが、当事者に輸血療法に関するインフォームド・コンセントを十分に行い輸血が患者を救う唯一の手段であると判断した場合は、医師の倫理的職業的義務として成分輸血を行う、いわゆる「相対的無輸血注2」の立場をとることを当事者に明らかにする(輸血謝絶兼免責証書は受け取らない)。
3)2)について当事者に十分説明し、治療法や医療機関について自己決定していただく。
4)当事者の自己決定に基づき「絶対的無輸血」による治療を希望される場合は、当院での治療は不可であることを説明し、当事者に転院を勧告する注3。
5)当事者が「相対的無輸血」に同意された場合は、輸血同意書を提出していただき治療を継続する。
6)上記1)~5)の説明には主治医を含めて複数の医療従事者が同席し、説明内容および結果などについては遅滞なく詳細にカルテに記載を行う。
注1:絶対的無輸血・・・輸血以外に救命手段がない事態になっても輸血をしないこと。
注2:相対的無輸血・・・輸血以外に救命手段がない事態になった場合は輸血をすること。
注3:受け入れ施設はその都度変更があるため、当事者側に転院先を探していただく。
【輸血療法に関するインフォームド・コンセント】
輸血療法を行う場合には、患者および/またはその家族が理解できる言葉で、輸血療法にかかわる以下の項目、すなわち
(1)輸血療法の必要性
(2)使用する血液製剤の種類と使用量
(3)輸血に伴うリスク
(4)副作用・感染症救済制度と給付の条件
(5)自己血輸血の選択肢
(6)感染症検査と検体確保
(7)投与記録の保存と遡及調査時の使用
(8)その他、輸血療法の注意点
を十分説明し、同意をえた上で同意書を作成し、一部は患者に渡し、一部は診療録に添付しておく(電子カルテにおいては適切に記録を保存する)。
輸血の同意を得られない場合、基本的に輸血をしてはならない。
【未成年における対応】
1)患者が18歳以上で医療に関する判断能力がある場合(医療に関する判断能力は主治医を含めた複数の医師によって評価する)
患者が「絶対的無輸血」を希望された場合は、転院を勧告する注3。
2)患者が18歳未満、または医療に関する判断能力がないと判断される場合
A)患者が15歳以上で医療に関する判断能力がある場合
①親権者は輸血を拒否するが患者が輸血を希望する場合は、患者が輸血同意書を提出する。
②親権者は輸血を希望するが患者が輸血を拒否する場合は、親権者から輸血同意書を提出してもらう。
③親権者と患者の両者が輸血拒否する場合は、18歳以上に準ずる。
B)親権者が拒否するが、患者が15歳未満、または医療に関する判断能力がない場合
①親権者の双方が拒否する場合は児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護の上、児童相談所から親権喪失を申し立て、あわせて親権者の職務停止処分を受け、親権代行者の同意により輸血を行う。
②親権者の一方が輸血に同意し、他方が拒否する場合は、輸血を希望する親権者の同意に基づいて輸血を行う。
上記1)、2)のいずれの場合も、医療側は当事者の同意を得られるように十分努力する。
平成24年3月 北部地区医師会病院 輸血療法委員会 作成
令和元年12月 改定